〈ひかり〉希望のパン

 希望というならあれもこれも――ということで、〈ひかり〉の入居者さんにもそれはいっぱい希望があります。以前、何をしてみたいですかと入居者さんに伺ったとき、
「ハワイに行きたい」
 と、言うのがあって、さすがに無理ですと申し上げたことがありました。もちろん、笑い話です。しかし希望というなら、そういうこともありの話で、特に高齢者の場合、たとえそれが実現不可能と思われるようなものであっても、明日への期待が膨らむのであればとてもいいことだと考えています。生きていくというのは、そういうとではないでしょうか。
 私たちがそうであるように、〈ひかり〉の皆さんもいろいろな希望を持っておられます。希望がたったひとつなんてことはないと思います。入居者さんも同じ。いろんな希望を持っておられます。
 で、今回は――「あうる」。ひかりの前にあるパン屋さんです。

 大きな三角屋根のちょっと心惹かれる建物で、緑に色づく木々を背景に佇む姿は、とても絵になります。店の前には色とりどりの花々と、そしてパンの香り。目に美しく、香りが心地よい。おいしいということは形にできるものだとしみじみ思います。

〈ひかり〉の入居者さんでMさんという方がおられます。この方は前々から前のパン屋さんに行ってみたいと仰っておられました。地域におられたころは自分で歩いて近所にパンを買いに行っていたそうです。〈ひかり〉に来れば目の前にはパン屋さん。行ってみたいという希望を持つのは当然のことです。
 で、パン屋さんにパンを買いに行くことになりました。しかし残念ながらその日は雨。でも、Mさんは諦めません。雨の中を走ってでも行くという心意気を見せてくれました。実はこれ、高齢者にとってはとても大切なことなんです。積極性は生きる活力です。
 出発。ゆっくりではありますが、着実に前に進み笑みを浮かべながら一歩一歩、歩みを止めることなくパン屋に向かって進んでいきます。無事パン屋さんに到着。すると、
「いらっしゃいませ」
 という明るい声。

 目の前にはたくさんのおいしそうなパン。

 Mさんはパンに目を向けるとまるで宝石を眺めるようなきらきらした眼差しで、
「おいしそうやな」
 と、うれしそうな表情

 じっくりとパンを吟味してひとつ選んでいただきました。
 Mさんの嬉しそうな顔を見ていると、できるならいつでもパンを買いに行っていただけたらとは思いますが、健康のことなどを考えると、なかなかそうしていただくこともできません。ですが利用者さんが入所される前にされていた地域での生活に可能な限り近づけ、支援させていただく事で、これからも日々の生活に張りを持って頂ければと思います。

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