〈ひかり〉お花見の頃

 お花見のシーズンになると思い出すのが、松阪の本居宣長さん――

 敷島の大和心を人問わば
 朝日に匂う山桜花

 いまだに朝日に匂うような山桜を見たことはありませんが(笑)、さぞ美しいだろうと思います。
 冒頭に本居宣長の和歌を持ってきた理由は、書き手の博識を自慢するためではなく(;^_^A、その和歌を諳んじていた入居者さんがおられたからです。さらに桜つながりで言いますと、

 花は桜木、人は武士、武士なら高山彦九郎

 と、その方は高山彦九郎のことまでご存じでした(最近はさすがに仰いませんが)。聞かされた時は、驚きもしたし関心もしました。少し前のことですが、桜の花を見て、そこまで話を広げられた方は、もちろん認知症の方です。
 認知症だから忘れてしまうのでは――と考えるのはもっともだし、確かにそういうことはあります。しかし、遠い過去の思い出は、しっかりと持っておられます。高山彦九郎のことを話してくれた入居者さんが、その名前を覚えたのは、おそらく80年くらい前のことではないでしょうか。

 入居者さんには、どんどん昔のことを思い出していただきたいと、私たちは考えています。高山彦九郎のような歴史上の人物でなくてもかまいません。家族や友人と過ごした楽しいお花見のときの、わずかな瞬間であってもかまいません。はっきりとした記憶でなくても、昔、お花見をしたときの、楽しかった感覚だけでも十分です。
 昔のことを思い出すということは、自分を再認識するということです。また、思い出すことによって、自分への信頼を取り戻せるかもしれません。それは、認知症の方にとって、とても重要なことなのです。

 最後に、あの日、外でお弁当を食べていた入居者さんに声をかけてくださった方々、この場を借りてお礼を申し上げます。
 入居者さんがいつも眺めるのは、〈ひかり〉職員の見慣れた顔ばかりですから、外に出て知らない人と接するということ、それだけでも大きな意味があります。
■お花見の季節

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