〈認知症相談〉周辺症状(BPSD)とは

ご家族のどなたかに認知症という診断が下されたとします。認知症という病気に対する心配も不安もおありだろうと思います。具体的な心配や不安についていえば、例えば、徘徊を始めるのではないか、物を取られたといって家族を疑うのではないか、介護拒否は、暴言や暴力は――等々ではないでしょうか。

今回はこれら誰もが不安に思う認知症の症状の中の、特に周辺症状について説明をさせていただきたいと思います。

1.中核症状と周辺症状
認知症には「中核症状」と「周辺症状」のふたつがあります。この周辺症状がBPSD――行動・心理症状です。

中核症状とはほぼすべての認知症においてみられる症状で、「記憶障害」「見当識障害」「理解・判断力の障害」「実行機能障害」「失語・失認・執行」などです。「中核」というのは「物事の中心にある重要な部分」というような意味です。

そして、周辺症状です。認知症という病気の中核にあるものを前述の症状だとすると、その周辺にある症状――だから周辺症状と呼ばれる、そう理解してください。中核症状と周辺症状の関係をもう少し詳しく説明します。

認知症により中核症状が出ます。
・中核症状が出たことにより、できないことが増え、しかも周囲にいる人に理解してもらえないという苛立ちや不安が生じます。
・その苛立ちや不安から、周辺症状が現れます。

つまり、認知症の方の支援や介護を困難にする「徘徊」「物盗られ妄想」「暴言・暴力」「介護拒否」などは認知症そのものの症状ではなく、後から発症するものだということです。周辺症状は、本人の性格や環境、心理状態が関係して現れるものですから、人によって現れ方が異なります。

そして、ここが重要なところなのですが、BPSDはその人の気持ちの現われでもあります。非常に難しいことなのですが、周辺症状があらわれている方への対応としては、本人の仰ることが、たとえどれほど矛盾してつじつまの合わない話であっても、その人の話をよく聞いて、否定せず、その人を理解するという姿勢で臨むことが大切だということです。

次に代表的な周辺症状について説明をさせていただきます。

2.代表的な周辺症状(BPSD)の症例
・不安・抑うつ
気分の落ち込みです。意欲の低下です。何事にも興味を示さなくなります。原因はできないことが増えていく不安や自尊心の低下もあると言われます。うつ病と誤解されることもあります。
・徘徊
絶えず歩き回る状態です。見当識障害や記憶障害などの中核症状に加えてストレスや不安などが重なることが原因だと言われます。

・弄便
便をいじることです。自分の体や寝具、壁などに便を塗り付ける行為です。認知症の進行に伴い、便に対する認識が薄れることや、オムツ内の不快感等様々の理由があると言われています。
・物盗られ妄想
認知症初期によくみられる症状です。物をどこにしまったのか忘れ、置忘れた自覚もないため、盗まれたと周囲の人を疑うのがこの状態です。記憶障害と不安が原因と言われています。
認知症による譫妄(読み:せんもう)
一時的に意識障害や認知機能の低下により混乱状態になることです。意識障害のひとつで、周囲の状況がわからなくなり、幻覚や幻聴、妄想などの症状がでます。認知症と譫妄は別の病気ですが、認知症の方は譫妄の症状を同時に発症することが少ないと言われています。
・幻覚
実際にはないものが見えることです。レビー小体型認知症では幻覚が見えると言われています。アルツハイマー認知症では幻聴が現れることがあるといいます。幻覚・幻聴と言いますが、本人にとっては現実に見えていることでもあり、否定はせずに、安心させてあげることが大切です。
・暴力・暴言
原因はもどかしさや不安だと言われます。認知症の進行に伴い、思っていることを伝えられないことにより苛立ちを深め、脳機能の低下により感情抑制ができなるために起きると言われています。
・介護拒否
介護に対して拒否が起きるのは、認知機能の低下により介護の意味が分からなくなるからです。自尊心から嫌がることもあります。支援者から見れば「介護拒否」ですが、本人してみれば拒否は「嫌だ」という意思表示です。支援者は必要性があるから介護をしているわけですが、これは理屈の話ではありません。まずは相手の心理を理解する必要があります。共感が必要になる場面です。

・失禁
排尿機能自体は正常ですが、認知機能の低下によって失禁が起きることがあります。「尿意がない」「尿意を伝えることができない」「トイレの場所や使い方がわからない」「排泄行為がわからずトイレ以外の場所で排泄する」という場合です。
睡眠障害(不眠、昼夜逆転
睡眠障害が起きる原因は、認知症により体内時計がうまく機能しなくなるためです。対応策としてはできるだけ生活リズムを整え、昼間に日光浴びて、生活上の不安を取り除くことも大切です。
・帰宅願望
帰宅願望とは「家に帰りたい」と頻繁に訴えることです。グループホームでも、少なくない入居者さんが帰宅願望を持っておられます。実際に帰ろうとする人もいます。いつ帰れるのかと訊いてくるか、帰らなければいけないと仰る方、それは施設だからということではなく、自宅にいても「家」を探しに行く方もおられます。原因は、環境、本人の心理状態によりますが、基本は落ち着かない環境にいるとき、本人にとって安心できる場所に戻りたいという欲求が出ることから起きると考えられています。
・異食
食べ物ではないものを口に入れてしまう行為です。食べ物かどうかの判断がつかなくなることや、不安やストレス、体調不良からも起きます。危険なものも口に入れるために、手の届くところに危険なものを置かないようにすることが重要です。

3.まとめ
ここまで非常に簡単ですが、周辺症状(BPSD)ということを説明をしてきました。

周辺症状(BPSD)とは、認知症の中核症状に、周囲の環境や対応、そこに性格などが影響して起きる「行動・心理症状」のことです。つまり中核症状の後に来るものです。中核症状から周辺症状が発症する過程は、本人の性格、環境、周囲の人の対応等によるところが大きいということです。

周辺症状には様々なものがあります。介護者が支援困難と感じるのは、周辺症状だと言われています。周辺症状を発症させないためには何よりも本人に対して否定的な言動を行なわないことが必要です。

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