〈ひかり〉私がこの仕事を続ける理由 2

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 今回も職員さんにどうしてこの仕事を続けているのかをテーマに話してもらいました。今回は、聞き取った話を私がまとめました。できるだけ、聞き取った言葉に近い感じでまとめたつもりです。
 なお、今回は動画はありません。

■やってみて一番難しいと思うところ
 それはもう利用者さんを支援することです。自分を出すと失敗します(笑)。
 というかうまくいきませんね。自分がというのは、つまりわたしですね、この自分です。
 利用者さんと一緒にいるとね、ついつい「こうした方がいいんじゃないですか」とか言いたくなる時があるんですよ。そこで言っちゃうとお叱りを受けたりする。その度に反省するんです。でも思わず言っちゃう時があります。
 実際にあったことでいいますと、例えば食事中に、床に食べ物を落としたりしますよね。わたしたちだってよくあることです。利用者さんがそれを拾おうとして立ちあがって、ティッシュをとって、屈んで、というのを見ていると思わず、口を出してしまうときがあります。こちらとしてはそれが仕事だと思って、わたしがやりますからと言ってしまったときです。利用者さんのほうから、
「わたしがしますから」
 と、叱られたことがあります。声を荒げるとかそういうことじゃないんですが、断固としてわたしがやります的なそんな感じでした。最初、どうしてそうなのか分からなかったです。だからびっくりしたり戸惑ったり、「え? なんで」みたいな感じでした。

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 でも、考えてみるとその方は、そういうことができる方なんです。その方のできることを、言葉は悪いですが、わたしが横取りしようとしたわけですから、お叱りを受けるのは当然のことなんです。
 親切のつもりというのがだめです。
 親切じゃないんです、利用者さんに自立してもらうことが大切なんです。これは主任から教えてもらったことですから、自分で気づいたことのように言うのは気恥ずかしいんですが、自立するお手伝いをするというのが、とても大切なんです。
 利用者さんがしようとしていることは、それがよほど危険なこととかでなければ、まずはご自身でやって頂くということ、手を出したり口を出したりはよくないです。
 わたしが良いと思うことと、利用者さんがしたいと思っていることは別なんですね。
 利用者さんにも、したいことや思っていることは当然あるわけです。そこはわたしたちと同じです。床に落ちたものを、自分で拾うんだという気持ちは、利用者さんにとって大切なことなんです。
 したいけれどできない。その時お手伝いをするのがわたしたちの仕事。主任からはそういったことも含め、いろいろと教えてもらいました。今も勉強中です。

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認知症についてどう思われますか?
 人それぞれです。わたしもこの仕事を始めるまでは認知症って、こうなんだろうなと、ぼんやりと理解していました。理解じゃないな、勝手に想像してました。
 そのイメージは、前のブログでも触れてましたけど、ドラマとかで見てる、そんなイメージです。
 でも、日々その人たちと接するようになって、全然違うということに初日から気づきました(笑)。
 この人たちは認知症なんだって忘れているときがあります。普通にお年寄りと話している感じになってきて、こちらもついつい自分のペースで話してしまうことがあるんです。
 で、これも主任から教えてもらったことなんですけど、この人ならこのくらいわかるだろうと思っていると、突然できないことがわかって、思わず、
「え? どうして」
 って思うことがあります。でもそこで、
「どうしてですか? この前はできてたのに」
 と、やっちゃうとだめなんです。もちろん、わたしたちは言いませんよ。仕事ですから。それはもう最初にしっかりと教えられますしね。でも、思わず出そうになる時があるくらい、ご病気だということを忘れている時があります。
 だから、普通にお年寄りに接している感覚というのが、最初に話した食べ物を落としたりしたときの対応ですね。わたしたちからすれば親切ですよね。当然理解してくださっているという思い込みが、実は間違いです。「わかっているんだろう」が一番よくない。いつも自分に言い聞かせています。

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■仕事について
 この仕事は難しいと思います。うまく言えませんが、とにかく難しいです。介護とか福祉の仕事とかについてあまり経験がなかったこともあると思います。
 この仕事に入る前は介護というと、オムツ交換をしたり、食事のお手伝いをしたり、入浴のお手伝いをしたり、車椅子を押したり、車椅子からベッドに移ってもらったり、その逆があったりと、イメージするのは一般的な介護のイメージでした。
〈ひかり〉でもそういう仕事が全くないわけではありませんが、主な支援は利用者さんとの時間を大切にするということです。特に傾聴が大切です。
 正直、初めのころ、それがよくわかりませんでした。支援というのは、ようするに最初わたしがイメージしていたようなことです。
 でもここはでオムツ交換もあまりないし、車椅子を押すことも、あるにはありますが、大半の方は車椅子の必要がありません。じゃあ、どんなことが支援かというと、お話をしっかりと伺うことです。それがとても大切なんだということは主任の支援を見ていていわかりました。

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 とても心配される利用者さんがおられて、わたしたちがどんなに話をしてもダメだったんです。安心どころか、逆にどんどん不安になっていくんです。そこで主任に対応してもらったところ、その利用者さんは落ち着かれました。
 じゃあ、主任がどんな凄いことをしたのかといえば、言葉は悪いですけれど何もしてないんです。利用者さんのそばに座って、大きな声を出すでもなく、「うん、うん」と頷いて聞いているだけで、話すのはほんの少しでした。
 でも、それで利用者さんは落ち着かれるんです。落ち着いてく様子が見ていてわかりました。すごいと思いました。
 あとで自分との違いを考えてみました。
 わたしは何とか落ち着いてもらおうと必死で喋っていました。説得しようとしていたんです。一生懸命、どうして心配しなくてもいいのか説明していました。たとえば、ご飯はでますとか、お部屋はありますとか、職員はいつもいますとか、そんなことです。病気になれば病院に行くと言ったりしました。
 主任は逆なんです。こちらからは喋らない。とにかく、相手の話を聞く。相手がこの人はわたしの話を聞いてくれているんだとわかってもらえるように聞きます。相手の不安をしっかりと聞く。
 それで分かったんです。利用者さんに安心してもらえるのは、大丈夫な理由を並べることなんじゃなくて、自分の話をしっかりと聞いてくれる人がいるって、そういうことなんだと。あれはほんとうにいい勉強になりました。

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■利用者さんってどいう人ですか?
 さっきも言いましたが、人ぞれぞれです。本当に何もかも違います。同じ人でも、日々違いますし、朝と昼と夕方でも違います。違うけれど、やっぱりその人はその人なんです。
 主任から教えてもらったのは、その人を良く知ることで、その人の芯みたいなものがわかってきて、その上で普段の変化に対応するということが大切なんだということでした。
 それって難しいことだと思いますが、仕事ですから、一生懸命勉強しています。

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 この前の〈ひかり〉のブログで、職員が「それまで何を大切にして生きて来られたのかが認知症の症状の中で色濃く表れる事があります」と書いてましたけど、本当にその通りだと思います。それが主任が言っている、その人の芯みたいなものなんだと思います。
 認知症と言いますけれど、感情はとても豊かです。だからわたしたちの対応によっては感情を害されることもある。その点はとても注意しています。記憶障害があるからわからないだろうではなくて、記憶障害があるからこそ、わたしたちの対応に鋭く、的確に反応するんだと思っています。本当に利用者さんは職員をよく見ています。
 利用者さんにとってわたしという人間は、すごく極端な言い方をすれば、いつも初めて会う人かもしれないですよね。「ああ、この人はこんな人だから仕方ないな」がなくて、初対面なのになんて失礼な人だろうって思われると困りますから。

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■私がこの仕事を続ける理由
 難しいです。一言では言えないです。どうして続けているのかを言うのも難しいし、仕事そのものも難しいなと思うことがあります。じゃあ、そんな難しい仕事をどうして続けているのか、なぜ楽な仕事を探さないのか。
 いろいろ理由はあります。給料のことは、もちろんありますよ。働いているわけですから。それはもちろん大切なことです。他にも資格が取れるとか、いろいろと理由は出てくるんですけれど、突き詰めて考えていくと、やっぱり達成感みたいないものじゃないでしょうか。
 ある瞬間に、利用者さんと心が通じ合ったみたいなときがあります。その瞬間、この仕事をしていてよかったと思います。わたしがこの仕事を続けている理由はそれでしょうか。

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