夏は怪談と相場が決まっています。最近はホラーといったほうがぴんと来る人が多いかもしれません。ホラー。英語で書くと「Horror」。「恐れ」とか「恐怖」という意味です。ジョセフ・コンラッドの小説「闇の奥」で最後に主人公のひとりが「ホラー! ホラー!」と叫ぶ場面があります。ちなみに「闇の奥」はホラー小説ではありません(笑)。
しかし、ここは日本。ホラーなどという西洋風の言い方よりも、やっぱり「怪談」です。雨がしとしと降って、青白い人魂が飛んで、足のない影がぼーっと浮かび上がり、ヒュードロドロと効果音が入って、「恨めしや~」となる。日本には怪談の伝統があります。
例えば「日本霊異記」「雨月物語」「百物語」などなど。古典から今に至るまで、名作傑作が数多くあります。上田秋成から楳図かずお、京極夏彦までというところでしょうか。素晴らしい作品群です。さらに、落語、講談、人形浄瑠璃、歌舞伎、古典芸能となると傑作怪談が目白押しです。
古典芸能に登場する怪談噺は、ただ怖いだけではなく、怖さの中に味わいがあります。お話を聞いていると、
「あ、人間ってそうだよな……」
と感じることがあります。わたしよりも遥かに人生経験が豊かなひかりの皆さんです。感じることはいっぱいあるのではないでしょうか。
ひかりの利用者さん、特に女性の方たちは怖い話が大好きです。怪談牡丹灯籠の一場面を、印象深く話してくださる利用者の方がおられます。昔から怪談噺が大好きで、夏はいつも怪談映画を見たり、怖い話を聞いていたと仰っています。
怪談噺で有名なのは三遊亭圓朝(円朝)。江戸末期から明治にかけての落語家さんで、この人はたくさん怪談噺を作りました。怪談牡丹灯籠も圓朝の作品です。ひかりの利用者さんたちはだいたい牡丹灯籠をご存知ですが、意外に知られていないのがドラマや映画になるのは全体の三分の一だということ。先日残りの三分の一をお話したところ、幽霊が生きた人間に恋をする有名なストーリーよりも、生きた人間の欲にまみれた姿、そちらの方を怖がってくれました。
「やっぱり人が一番怖いなあ……」
とても深い言葉です。幽霊や妖怪が跋扈する怪談世界は、現実世界の裏返しのようなものかもしれません。
老若男女を問わず、みんな怖い話が大好きです。恐怖は想像力を刺激するからでしょうか。これまでに話した怖い話は、「西瓜」「耳なし芳一」「桜の森の満開の下」「八百比丘尼」「牡丹灯籠(中間部分と後半部分)」「生きている小平次」などなど。ちなみに日本の怪談のキーワードは「水」です。水という小道具がなければ、あっという間に終わってしまうのも日本の怪談の特徴です。