〈認知症相談〉BPSDの対応について

前回はBPSDについて説明させていただきました。少し復習ををすると、BPSDというのは周辺症状だということ。認知症という病気の中核症状の周辺に存在する病状で、認知症の中核症状が出たことで、①できないことが増える②周囲の人に理解してもらえない③その苛立ちや不安から、周辺症状が生まれると説明させていただきました。

「記憶障害」「見当識障害」「理解・判断力の障害」「実行機能障害」「失語・失認・執行」などの症状が現れた場合、誰もが不安になります。そしてそのことを理解してもらえない場合不安はさらに大きくなります。ただ理解してもらえないということだけであっても不安になるのに、さらに自分の失敗を責められれば、誰でも悲しくなり腹立たしくなることは理解していただけると思います。

■目次
1.対応について
2.事例
3.まとめ

1.対応について
認知症の方の対応についてとても印象に残っている話があります。長年主婦をしてこられた女性が、ご高齢となり、認知症を発症したとします。その方は長年家族のために食事を作ってきました。その習慣は認知症になった後ももちろん消えることはありません。その女性は家族のために料理を作ろうとします。しかし、家族にしてみれば、認知症の方が包丁を使うことに対して、どうしても抵抗があります。危険だと思うからです。そこで家族は止めようとします。料理を作りたい女性は不愉快になり、諍いになります。

そういう場合どうするのか。止めては諍いになります。ですから、一緒に作りましょうと言えばよいのだということでした。ここで言われているのは、否定しないということです。そんなことをしてはだめです、と言わないことです。誰でも自分がしようとしていること、したいと思っていることを止められれば腹が立ちます。止めるのではなく一緒にする、お手伝いをするということで、相手を不快にすることもなく、腹を立てさせることもなく、支援ができるということでした。

現実的にはなかなか難しいことだと思います。ですが、支援では何よりも否定しないことが大切です。これはグループホーム認知症の支援をしてきた人ならよくわかる話だと思います。だめです。やめてください。危ないからやめましょう。これら否定的な言葉は必ずと言っていいほど支援困難な状況へとつながっていきます。その場は何ともなくても、先々大きな問題となってはね返ってくる。グループホームで働いてきた者の実感です。

だから、支援者はできるだけ否定的な言葉を使わないように注意しています。それでも思わずそういう言葉が口を突いて出ることがあります。反射的に言ってしまうことがあります。それほど難しいことなのだということは理解しています。思えばグループホームの支援者は1日24時間のうち8時間だけを認知症の方たちと生活を共にします。しかし、ご家族の場合はそうはいきません。24時間常に生活を共にしているご家族です。それが正しいとわかっていても、人には感情があります。思わず、否定的な言葉が口をついて出てしまうことがあります。そこに難しさがあります。

2.事例
少し実例について紹介させていただきます。以前〈ひかり〉のブログで紹介させいただいたこともある事例です。

①ほっといてください
とにかく自分のしようとしていることを中断されることが嫌です。例えば食事中に箸を落としたとします。職員としては入居者さんのことですから、それこそ反射的に拾おうとします。

すると、「ほっといてください!」と叱られます。不慣れな職員の場合、それでびっくりし、思わず「拾って差し上げようとしただけです」と言ってしまいます。すると「私がしますからほっといてください」と、また叱られます。

支援をする側は親切のつもりでも、受ける方は必ずしもそう思わないということはグループホームだけではなく私たちの周りでもよくあることではないでしょうか。何かをするとき、相手にひとこと「お手伝いしましょうか」と声をかけることはとても大切なことです。

声をかけて「自分でします」というときは、何もせず、様子を見守るようにします。私たちはそういったことを心がけています。

②どうして家に帰ることができないんですか
いわゆる帰宅願望は誰にでもあります。生まれ育った場所が、自分にとって一番いい場所というのは、多くの人にとっての感情、普通の感情だと思います。認知症の方だけが帰宅願望を口にすると困るというのは見方としては偏っていると思います。

帰宅願望を訴えてくる入居者の方に対しては、「今は無理です」、「それはできません」というような言い方はストレートな否定になり、いい悪いだけをいえばよくなということになります。しかし、その一方で家に戻ることはできないという事実は事実としてあります。つまり支援者としては否定もできないし、まして肯定もできないという、非常に難しい対応になります。

ですのでよくする対応としては、ご家族に連絡をして迎えてきてもらうようお伝えしますというようにしています。今は無理だけれど、家族さんが迎えに来れば帰ることができますという表現で安心してもらうようにしています。真実かどうかだけをいえばそれは真実ではありません。しかし、まずは安心していただくことを支援者は優先します。2月の〈認知症相談〉ブログでも書かせてもらいましたが、帰宅願望を訴えるということは、今いるその場所が本人にとって落ち着かない環境であるということです。ご本人にとって落ち着ける環境に戻りたいという思いの表出だとも言えます。ですので、いったん落ち着ていもらえば次はその人にとって現在の環境がどうなのかを再確認することになります。

③不安や抑うつ
「どうしていいのかわからない」という不安を訴える方がいます。例えば《食事の仕方がわからない》であるとか《自分がいま何をしていいのかわからない》とかです。認知症の進行に伴い実行機能障害が進行すればそいうことも起きています。また気分の落ち込み、意欲の低下、何に対しても興味を示さなくなるということも起きてきます。ソファーに座り、表情も乏しくなり、じっとしている入居者さんの姿を見ることもあります。

対応する方法としてよく言われるのは、①こまめな声かけ②一度にたくさんのことを伝えない③何ができないかを見極めておく、ということが挙げられます。総合すれば《その方をよく観察し、日ごろからコミュニケーションをとること》ということに尽きます。気分の落ち込み、意欲低下、無気力の原因は、できないことが増えていく不安や自尊心の低下も原因であると言われています。つまり、支援者は良き話し相手であるということが大切ということになります。その人と話をすることで、何ができないのかを知り、何に不安を感じているかを知り、何に興味を持っているかを知ることができます。

ほかにもありますが、まずはこの3つを事例として挙げさせてもらいました。

3.まとめ
2の③で述べたこと。《その方をよく観察し、日ごろからコミュニケーションをとること》ということは「言うは易く行うは難し」の典型のようなところがあります。最初の方でも述べましたが、支援者は仕事として認知症の方と接しています。限られた時間の中で、しかも認知症の方の支援に集中できる環境があります。ご家族とは条件が異なります。ご家族にはそれぞれの生活があり、24時間、認知症の方に付き添って、対応できるわけではありません。

それともうひとつ、仕事として認知症の方の対応している職員は代わることができるということです。ある職員がうっかり入居者さんへの対応を間違えた場合、別の職員に代わってもらうことができます。家族の場合、限られた人間が、ずっと対応しなければなりません。仮に認知症の方と行き違いがあっても、対応する者が変わるということができません。これは支援を受ける側にとっても、また支援をする側にとっても大変負担のかかる状態です。

支援者が負担と感じる状態は、支援を受ける側にとっても負担である場合があります。そして支援を受ける側、認知症のある方は、自分の思いを、うまく言葉で表現することができません。そのストレスがBPSDへとつながっていきます。

ですので、まずは相談をしていただければというのがグループホームで支援をしている者としての思いです。

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