今回は個別対応についてです。認知症ケアに限ったことではありませんが、対人支援は個別のものです。ですので、グループホームの場合ですと、入居者さんそれぞれに支援計画を作ります。
高齢者に限ったことではありません。人はそれぞれ違うという当たり前のことを書いています。なのですが、その当たり前のことを、仕事として支援をしている私たちですら時々、忘れることがあります。この人は認知症だからと思わず考えてしまうことがあります。ですが、認知症という名前の人はいません。何の某{読み:なんのなにがし|言い表そうとする人の姓名をはっきりさせない言い方です}という方がいて、その方が認知症という病気になったということです。あくまでも個性を持ったひとりの人格が先にあります。ですからそれまでのその人を良く知っていることが大切になります。
認知症というステレオタイプ{多くの人に浸透している先入観や思い込みのこと}でその人を見ない。これがとても大切です。
しかし、とても難しいことでもあります。
1.ご家族の場合
ご家族の場合は、比較する対象がありませんから、どうしても認知症になった方だけを見つめることになります。また家族ですからわかっているという先入観がありますが、もしかするとそこに落とし穴があるかもしれません。
お父さんやお母さんのことはよく知っている。そのよく知っているはずの家族から、突然厳しい言葉をかけられる。あんなに穏やかだったお母さん(お父さん)が家族に対して攻撃的になった。あるいは家族を泥棒扱いするようになった。驚き、悲しみ、失望、色々感じると思います。
【認知症によって本来の性格が出たのか?】
それはありません。ときに激しい言葉で家族を攻撃することもあるかもしれませんが、それがその人の本当の姿ではありません。認知症により隠されていた本当の姿が表に出てきた、そういうことでは絶対にありません。
確かに、BPSDはその人の性格によるところもありますが、そういった行動は性格的な問題というよりも、認知症により生じた脳機能障害によって、感情のコントロールができなくなったからだということです。
【支援者がストレスを溜めない】
難しいことですが、これを常に考える必要があります。先ほど、認知症によって本人の本当の性格が露出したわけではないと書きました。
しかし、支援者が追い詰められてくると、もしかするとこの人はわざとやっているんじゃないかと思えてくることがあります。
もし、そんなふうなことを考えはじめたら、相当疲れているはずです。普段のあなたは決してそんなことを考えないはずですから。
2.相手をよく知ること
たとえば、怪我をしている人がいます。普通の人間なら怪我をしているところに触ったりしません。痛がることがわかっていますから。
しかし、これが認知症となると相手の痛いところに、無神経に触れてしまうことがあります。当然相手は、痛みを訴えるだろうし、場合によっては悲鳴を上げるかもしれません。この悲鳴がBPSDだということです。認知症はわかるようでわからないところがあります。明らかな怪我のように包帯を巻いている、血が滲んでいる、そういったことがありません。
その方が、何に不安を感じて、何にストレスを感じているのか、グループホームで入居者さんの支援をしている私たちが、その人を良く知ろうとするのは、その人の怪我の場所を知るためです。一口に怪我といってもその場所によって痛みが変わってきます。認知症といっても人によって違います。だから認知症という言葉でひとくくりにしないことが私たちの仕事では必要になってきます。
3.まとめ
家族だからわかっているというのは正しいと思います。ですがわかっていると信じることはもしかしたら判断の誤りにつながるかもしれません。たとえばご両親です。父母としての両親は知っていても、仕事をしているときや友達と一緒にいるときの父母は、知らないかもしれません。親のことだから知っていると決めつけず、話してみることが大切だと思います。実際に話をしてみると意外な発見があったります。
話をすることによって、
・生活歴を知る
・困りごとを知る
・言えなかった不安を知る
・腹が立つことを知る
等々いろいろと知ることができます。いろいろなことを知ることで、その人の理解が深まります。理解が深まれば、言葉の掛け方も、怒っているときの対処方法も見えてきます。手間がかかることのように思えるかもしれませんが、やってみるとそれほど手間はかかりません。
そして何よりも相手を知ることで対応が変わってくると、BPSDの症状が緩和されてくると思います。完全に消えることはないにしても、それ以前よりも穏やかになるということは、経験的にわかっています。もちろん医療的なケアも含めての支援ですから、症状があまりにひどいときは医師に相談する、診断を受けるということは必須です。
なのですが、たとえば症状を緩和する薬が出たとしても、それだけですべてが解決するわけではありません。やはり日々の接し方が重要です。医療も支援も含めての認知症対応だということです。