〈ひかり〉私がこの仕事を選んだ理由 Ⅳ

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 ――こういった仕事はここが初めてですか?
 初めてです。介護の仕事は〈ひかり〉が正真正銘、最初ですね。

 ――どうして〈ひかり〉だったんでしょう?
 自営業をしていたんです。それをやめて、でもまだ働きたかったから、何か仕事はないかと思って探していました。近くにドラッグストアができたから、そこで働こうか、なんて考えたりしていました。そんなとき、育成会で職場体験があると聞いて、それできました。
 経験もないし、普通だったら行かなかったかもしれないけれど、職員さんの笑顔がよくって、それでいってみようって、そんな感じでした。

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 ――そんなに笑顔はよかったですか?
 よかったですねえ。ほんと、とても柔らかな笑顔で、誰かに頼まれて笑っているんじゃない、本当に笑いたくて笑っている笑顔のように感じました。

 ――では、実際に働いてみて、どうしてか?
 大変でした(笑)。それにつきます。
 今は自分もここで働いている職員ですから、他人事のように言っていると思われると困るんですが、本当に大変だと思いました。でも、大変なだけなら続けていけませんからね。大変以上に、嬉しいことや楽しいことがあるわけです。楽しいこともいっぱいあって、そのうえで大変なこともあるということです。

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 ――具体的には?
 変化です。利用者さんは日々変化していますから。その変化に対応することが大変です。もちろん、人にもよるんですよ。でも、変化に対応するときがやはり大変だと感じます。
 たとえば、午前中は穏やかに過ごしていただいた。でも、午後になると鞄を持ってこられて、
「家に帰ります」
 と、言われるんです。思いとどまってもらおうと、いろいろと話をするのですが、
「玄関を開けてください」
 気持ちが変わらないんですね。そんなときはどうしようかと思います。
 どうやって対応したかというと、主任です(笑)。主任に助けてもらいました。誤解されると困るんですが、頑張りすぎないことも大切ですよね。自分には無理と思ったら、さっさと助けを呼ぶこと。頑張って無理をして、仮に自分の思いどおりになっても、それってもしかすると自己満足? なんて思ったりすることもあります。どこかで利用者さんに無理をしてもらっているかもしれないですから。
 無理に頑張って、そのときはたまたまうまくいっただけかもしれません。『結果よければ』というのは、この仕事ではあまりいいことではないのかもしれませんね。成功体験に引きずられると、いつか事故になるかもしれない。何度もうまくいった。でも今度は事故になった、それじゃ意味がありませんから。
 利用者さんは、主任がきてくださるとだいたい落ち着かれますね。

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 ――理由はなんでしょうか?
 それ、わたしも興味があって、
「秘訣はなんですか?」
 と、訊ねたことがあります。料理の味を引き立てる秘密のスパイスは何ですかって、そんな質問です(笑)。
 主任は笑って、
「秘訣なんかありません。日頃のコミュニケーションです」
 つまり普段から利用者さんの話をよく聞いて、信頼関係を築くことが大切なんだということでした。結局、人間関係なんですね。当たり前のことを続ける。続けるということが難しいんです。
 もっとも大切なことは、利用者さんを理解しようという気持ちだとも言われました。
「あなたの思いはわかります、わかろうと一生懸命なんです」
 ということを相手に知ってもらうことが必要だと言われました。その気持ちがあってのコミュニケーションです。
 家に帰りたいと言われて困るのは、わたし、つまり職員側の都合ですよね。誰だって家に帰りたいと思いますよ。それって当たり前のことなんです。利用者さんが当たり前のことを言うとなぜだめなんでしょう? 主任にそう訊かれて、「え?」って感じでした。
 やっぱり自分の家が一番なんです。〈ひかり〉で楽しく過ごしていただこうと、一生懸命支援をしていても、住み慣れた家が恋しいという気持ちはあるし、そう思うことはとても自然なことなんですね。
 その気持ちを口先だけでごまかそうとしても、それはうまくいかない。言われてみるとなるほどと思いました。家に帰りたいというスイッチが入った人の気持ちを切り替えることはとても難しい。そこでものを言うのは、やはり信頼関係だということですね。
 家に帰りたいと必死で訴えている人が、
「この人のいうことだから、もう少し待ってみようか」
 そう思っていただくには、やはり普段から信頼関係を築いていることが大切なんだということです。言われてみれば当たり前のことなんですが、それを主任から教えてもらいました。

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 ――最後に、この仕事を続けている理由はなんでしょう?
 気持ちが通じ合う瞬間の喜びですね。ちょっとかっこよすぎるかもしれませんが、その一瞬があれば、それまでの大変さを忘れられますね。わたしの場合、そのために仕事をしているようなところも確かにあります。それが続けている理由ですね。
 変なたとえに思われるかもしれませんが、支援というのは利用者さんとわたしたち職員の協働作業のように思うことがあります。料理に例えるなら、職員と利用者さんでつくって、皆で「美味しいね」といって食べる、そんなものだという気がします。

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