〈ひかり〉私がこの仕事を続ける理由(3)

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 こういう仕事はここが初めてではありません。ここへ来る前もグループホームで働いていました。
 個人的な事情でそこを辞めて、しばらくしてまた仕事を探し始めたとき〈ひかり〉の募集があったので、応募しました。
 前の職場と〈ひかり〉との違いですか? それはいっぱいありすぎて言えません(笑)。どちらがいいとか悪いとか、そういうことではないですよ。でも違います。
「同じグループホームでもずいぶん違いますね」
 ここに来た時、主任にそう言ったことがあります。そのとき主任から、
「施設のやり方は文化みたいなものですから」
 と、言われました。
「どういうことですか」
 と、訊くと、
「文化って不合理なものでしょう」
 聞かされたときは、「え?」って感じでした。

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 主任が言われるには、それぞれの施設にはそれぞれのやり方があって、初めての人にはそれがとても効率の悪いやり方に見える場合があるということ。実際に不合理なこともあるのかもしれないけれど、その施設でそういったやり方をするようになったのは、それなりの理由がある。だからその理由をしっかりと聞いてから、本当に不合理なのか判断する必要がある。そういわれて、なるほどと思いました。
 わたしたちでもそうですけれど、人は誰だって不合理なことをしますよね。つまり非効率的なことをする生き物なんです。合理性だけを求めれば、その人が本当に望んでいることができない場合もある。ぱっと見では不合理に見えても、その不合理なことを利用者さんが望んでいるのなら、その希望に沿う形の支援を行う。不合理だからしませんじゃないですよね。
 それと、対人支援は個別のものですからね。絶対的に正しいやり方というものはないわけですよ。人の数だけ支援方法はあるはずなんです。
 そうやって考えていくと、いろんな人が入所している施設は、その施設独自のやり方が生まれるはずです。だってまったく同じ施設は二つとありませんから。私たちの家庭だって、まったく同じ家庭というのはありませんものね。違って普通なんです。主任からはそれを教えられました。

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 でも、その一方で、絶対に変わらないもの、変えてはいけないものもあります。施設によって違いはあって当たり前、という話の後に主任から、
「でも変えちゃいけないものもあります」
 と、控えめに言われました。それがとても印象に残っています。
 それぞれの施設によってやり方は違っても、利用者さんの尊厳を守ること、これは絶対に忘れてはいけないと。主任は尊厳とは言わなかったかな……そう、利用者さんの思いを守ることと言ったんです。わたしたちの思いが主ではなくて、利用者さんの思いが主だということですね。わかっているようで、忘れがちなことです。
 支援というと、わたしたちはついつい具体的な方法を思い浮かべがちです。起床支援の方法や時間、食事のとり方、入浴の仕方、いろいろとあります。具体的にこうするみたいない方法です。これはとても分かりやすいですから、わたしたちの目はどうしてもそちらに行きがちです。
 でも方法にこだわり続けると、本当に大切なものを見落としてしまう場合があります。利用者さんの思いとは別のことを押し付けてしまうことがあります。それって利用者さんの存在を無視することなんじゃないかと。もし、どうしても利用者さんの意思と異なることをしなければならないときは、ご本人としかっり話し合って、双方納得の上で決めていくべきなんです。

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 利用者さんの思いは目に見えません。わたしたちが感じ取るべきものなんです。
「目に見えないものの方が、この仕事では大切なんだと思います」
 主任にそういわれた時は目から鱗でした。
 あれ以来支援がうまくいっていると感じる時は、立ち止まって考えるようになりました。
 後、最近になって思うことがあります。利用者さんはとても敏感だということです。 自分がそんなこと考え始めたころ、NHKの番組で、認知症の人が認知症の人の相談に乗るという取り組みをしている香川県の病院が紹介されていまして、その中でとても印象に残った言葉があります。
認知症の方たちは、わたしたちよりも3倍も4倍も敏感なんです」
 これは聞いていて、思わず「そう」とテレビに向かっていってしまいました(笑)。
 支援をしていると、本当にそう感じることがあります。特に意思の疎通が難しいと感じる人ほど敏感だと思います。だから、自分が良かれと思っていしていることでも、本当のところ利用者さんがどう思っているのか、とても気になります。
 ほんと、日々勉強です。
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