〈ひかり〉 職員インタビュー

 〈ちょっと長いですが、ひかり職員のインタビューです〉

 ――この仕事に就いたきっかけについて教えてください

 偶然というか成り行きというか、特別なことは何もありません。

 ――特別でなくても教えてもらいたいんですが。

 詳しく話すと「え?」ってことになりそうで気が引けるんですが――人の役に立ちたいとか、そういった前向きな理由は何もありませんでした。
 そのころ、配達の仕事をしていたんですが、ちょうどあの3.11があった時です。配達の仕事では、車を使いますから、給油することも業務に含まれるんです。それであの震災の時です。ガソリン不足になって、なかなか給油することが出来なくなってしまって、本当に大変な時期がありました。
 一度なんか、私の前でガソリンがなくなったことがあって、そのときは2時間も早起きをしてスタンドに行ってたから、「え? なんで?」って感じでした。
 もう寝ても覚めても給油をどうしようって感じでしたね。そんなこともあって、転職を考え始めたんです。でもその時でも福祉のお仕事に行くということは考えてませんでした。

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 ――どうしてですか?

 なぜって……うーん、難しいですね。とにかく福祉の仕事って、自分からはとても遠くて、ほんとに考えもしなかったです。
 なぜ考えなかったのかというと、福祉の仕事は大変っていう事でしょうか。世間でもそんなふうに言われていたし、そんな大変な仕事は自分には無理だと思っていました。そんなふうにして、次の仕事を先を探していた時です。先にこの仕事についていた知り合いからすすめられました。
「大丈夫、やれるわよ」
 軽く言われて、やってみようかなって思いました。悩んだ割には簡単に決めたみたいなところがあります(笑)。
 それに資格も取れると知り合いから言われて、この先仕事を探すにしても資格があればきっと有利だろうと、そんな感じで福祉の世界に入りました。だからこの業界に入ったのは40歳を超えてからです。
 資格ですか? 介護福祉士です。

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 ――実際に仕事を初めてみて感じたこと。

 最初に入ったのは特養でした。
 誰だってそうなんでしょうが、最初のころは先輩のすることを見てまねることからでしたね。最初のころは戸惑うことも多かったです。技術的なことはもちろんですけれど、それ以上、入居者さんに戸惑うことが多かったです。
 今思えば当たり前の話なんですけど、入居者さんの理解、これが一番難しかったです。

 ――そのあたりをもう少し具体的に教えていただけませんか。

 介護と聞いてよくイメージされるのは、オムツ交換、移乗、更衣、入浴、食事介助……とかそういう基本的な技術のことばかり――みたいなところがありますよね。
 でも本当に難しいところはそこにあるんじゃなくて、自分が支援している方をよく知ることが、一番難しいんです。基本的な技術は慣れですから、数をこなせば覚えられると思います。体が覚えちゃいます。でも、その人を知るというのは、ワンパターンじゃなくて、人の数だけありますから、だから難しいんです。
 例えばですね、移譲ひとつとってみても、その人は立位をとれるのか、腕の力は、座位はどう……と考えていくと、車椅子からベッドに移ってもらことだけでも、人によって全く違ってきます。人によって違うというのは、やり方が無数にあるということですよね。
 そのあたり、わたしたちは皆一緒くたに考えてしまいがちなんです。固定観念というか、パターンで覚えてしまうのは楽ですもの。でも、人によって全然違います。その違いを知ることが難しいんです。もちろんご本人に納得して頂くことも大切です。というかそこが一番です。

youtu.be

 ――そういうことを知るきっかけになったのは何でしょう?

 最初に勤めた特養にとってもとっても厳しい入居者さんがおられました。社会的に地位のある方だったと聞いていましたが、とにかく厳しい方で、何か質問をされて答えられないと厳しく注意されました。
 そんな感じで、何か失敗をして注意されるんじゃないかとびくびくしていました。それでいろいろと考えたんですけれど、考えれば考えるほど失敗するみたいなところもあって、悩んだ末に、事務的というか、淡々と仕事をすることにしました。そうするしかなかったということなんですけど。
 質問をされて、わからないときは、その場をごまかそうとするんじゃなくて、「もうしわけありません、今はわかりませんので調べて、後で説明させていただきます」って感じで話すと、
「わかった、そうしてくれ」
 と、穏やかに答えてくれました。
 そのあたりからだんだん、わかってくるようになった気がします。その方にはそれが良かったみたいで、だんだんと打ち解けてくれて、
「君はきちんとした仕事をする人だねえ」
 と、褒めてくれるようになりました。
 これは驚きでした。それまで、こういう仕事では、入居者さんには優しくするんだろう、くらいに考えていました。優しくするというと、優しく語り掛けるとか、笑顔を絶やさないとかそういうイメージでした。
 確かにそれは大切なことでもあるし、そういった支援を希望される方も居られるとは思うんです。もしかすると、私が最初に怖いと感じたような方は少数派かもしれません。でも入居者さんを一括りで考えてはいけないということを、そこで勉強させていただきました。
 当たり前と言えば当たり前の事なんですが、入居者さんは――入居者さんなんかじゃなくて、全く違う人たちなんですよね。名前が違うように、生きてきた背景も違うし、何もかも違うんです。だから服を着てもらうにしても、お風呂に入って頂くにしても、やっぱりその人に合わせること、その人の身体状況であるとか性格とか、好みとかまでを知る必要があるんじゃないかと。
 すべて人によって違うということを理解して、支援すること――本当に難しいのはそこなんだということに気づかせてもらったの最初の職場でした。最初の職場がそういう職場だったということは、いまとなってはとても良かったと思っています。

                                                                                                                  続く